オブスクラ 鷲羽巧短篇集
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2018年から2022年にかけて、京都大学推理小説研究会の機関誌『蒼鴉城』を中心に発表してきた中短篇を集成した一冊。全7篇で300頁弱の、たいへんボリューミーな作品集となっております。 現在、第2刷を準備中。 発送は10月7日以降を予定しております。 以下、収録作品紹介。
「鴉はいまどこを飛ぶか」(2018)
〝「良かった。あなたがお嫌でなければ、これからも、この子の友達でいてあげて……。この子はずっと籠の鳥だったけれど、外のひとともっと触れ合って、外の世界に居場所を見つけるべきなのよ」〟 寂れゆく故郷の村に、わたし・深山くろはは帰ってきた――信頼のおける後輩にして名探偵の、十文字あやめとともに。数年ぶりに再会する祖母と父、叔父とその妻、使用人たち。嵐が不穏な気配を連れてくるなか、事件は起こった。 犯人当て小説です。のちに京大ミステリ研の犯人当て傑作選『WHODUNIT BEST』にも採録された、自信作であり代表作。
「はさみうち」(2019)
〝「わたくしにはわかったのです、殺人者の名が!」〟 事件は、街の小劇場で起こった。公演中の舞台、その真ん中に、突如として死体が転がったのだ。容疑者は舞台の出演者に絞られたが、殺人がおこなわれた時機と場所を絞ることができない――。事件を担当する多々良警部は、十文字あやめの知恵を借りることにした。 犯人当て小説です。こちらも『WHODUNIT BEST』採録候補に挙がった作品で、それなりに強いインパクトを残す趣向が施されています。今回の収録が、一般での初公開となります。
「喝采」(2019)
〝――人生は物語ではない。でも、物語でなければ生きていけない。〟 夭折した俳優・神山巽。優れた人柄と才能で誰からも慕われていた彼について記事を書くことになったジャーナリストの烏丸は、その生涯に隠されたものがあると知る。彼は何を隠しているのか。彼が舞台にかけていたのはなんだったのか。 ある人間の生涯そのものを謎として問いながら関係者を経めぐってゆく、云わば〝巡礼〟式の小説です。
「鳥類学者の記憶法」(2020)
〝【どうして記録するかと云うとね。】千波は両手でレコーダーを揉み込むように持っている。【記憶するためだよ。】〟 殺された鳥類学者は生前、耳の聞こえない少年と交流を重ねていた。死体の第一発見者となった少年は、何を見たのか、何を聴かなかったのか。 「鴉はいまどこを飛ぶか」「はさみうち」につづく〈十文字あやめ〉シリーズです。けれども探偵小説としての組み立てからはみ出してしまうものにこそ、本作の眼目があります。
「火星とラジオ」(2021)
〝急げ。もっと早く〟 火星で失踪した宇宙飛行士。火星に魅せられた天文学者。火星に憧れながら、酒に溺れて死んだ父。彼らはみな、あるラジオドラマについて語っていた。それは果たして実在するのか? 父たちの記憶をたどってアメリカ大陸を横断する旅は、思いがけない場所へと少女を連れてゆく。 ミステリであり、SFでもあります。けれども何よりこれは、探求の小説です。
「象と絞首刑」(2022)
〝言葉だけが最後に残るんだ。〟 小父さんが死んだ。名探偵の助手として、その活躍を記し続けてきた小父さんは、鍵付きの抽斗のなかに秘密の手記を残していた。そこに書かれていた名探偵の生涯、その真実とは――。 名探偵の話です。名探偵についての物語であり、名探偵についての物語についての物語でもあります。
「オブスクラ」(2022)
〝映し出されているのは一枚の写真だった。ポラロイドカメラ特有の淡い色調は、プロジェクタを介することでいっそう曖昧な印象を与える。その内容をぼくは描写した。ウインドウに反射する写真家は丈の合っていないシャツを身に纏い、眼からカメラを離して下腹部で抱えながらシャッターを切っている。顔はウインドウに貼られたポスターで恰度切り取られるように隠れていた。【カメラのことならおまかせ】とポスターは謳う。【あなたの思い出を永遠にしませんか?】〟 泥棒の多岐と、彼の計画に毎度付き合わされるぼくが今夜侵入したのは、とある写真史家の屋敷だった。多岐の仕入れた情報が正しければ、そこには写真家アウグスト・ザンダーの未発見ネガが眠っていると云うのだ。多岐が家探しする時間を稼ぐため、ぼくは家主の老人相手に、ある写真家の物語を語り始める――。 表題作。写真とそれを語ること、あるいは物語そのものをめぐるサスペンス小説です。